金沢備忘録1
先日 6年ぶりに金沢を訪れた。
大阪に住む友人と思いつきで金沢旅行を計画し 久しぶりの遠出にわくわくしていた。
私は旅先や出張先で、その土地にしかない喫茶店に行ったり朝ごはんを食べる時間が好きで 金沢でもモーニングをしようと思った。候補はいくつかあったけれど 6年前に訪れたとき定休日でふられてしまった"ひらみぱん"がモーニングをしていると知り、開店と同時に行こうと決めた。
早朝に金沢に到着。友人はお昼前に到着するのでモーニング後に合流する予定。席についてクロックマダムとホットコーヒーを注文したところで
「土砂崩れでサンダーバードが運休になった、次の便に振り替える」
と友人から連絡が。そしてその数分後...
「次の次の便まで運休になって復旧の目処が立たない。バスで向かって金沢に到着するのは18時くらいになりそう。」
ということで突然ひとり旅を余儀なくされた。ひとまずクロックマダムを食べよう。
旅行には何かしらハプニングがつきものだけれど こんなことはそうそう起きない。想定外の事態に少し戸惑いながらも不思議と不安な気持ちはなかった。
どこに行こうかと考えていたところに運ばれてきたコーヒーカップを持ち上げた瞬間 今日はいい一日になると確信した。さてこれからどうしよう。
私は知らない土地での街歩きが好きなのでバスには乗らず徒歩で移動することに。行ってみたい喫茶店があったのでひとまずそこまで歩いてみる。少し歩くだけでも気になる物がたくさんある。新しいものと古いものが混在していて面白い。
喫茶店に向かう途中で ある喫茶店の看板が目に留まる。
"喫茶 四月"
漢字
縦書き
字体
絶妙な色合いのブルー
ものすごく惹かれる。外からは店内の様子が全く見えず 通りは静かで人気もなく 入る勇気が出ずに通り過ぎる。
目的の"東出珈琲店"に到着。ブレンドとプリンを注文し ぼーっとする。
コーヒー→プリン→コーヒー→プリン...
このループずっとしていたい。
常連さんが次々とやってきて
「ブレンド100gとエチオピア100gくださーい」「いつもありがとうございます〜」
という軽快なやりとりが聞こえてきたり 一人で新聞を読みながらコーヒーを飲むおじさまがいたり お店の人と昔話に花を咲かせている人がいたり 地元の人に長く愛され続けている空気が心地よかった。
お店を出て近くの尾山神社へ。朝から雨が降ったり止んだり不安定だったお天気が 神社に到着したところで快晴に。
雨に濡れてキラキラと光る木々、木漏れ日、池に反射する景色たちにうっとりした。雨上がりは緑の匂いが濃くて好き。図らずもいいタイミングで参拝できた。
時刻は10時半。まだまだ時間がある。先ほど入らずに通り過ぎた喫茶四月がやっぱり気になって戻ることにした。おそるおそる扉を開けると店主の女性とカウンター席に常連らしきおばあさんが一人。
店内を見渡してもメニューが見当たらない。
「何にしましょう」
「さっきコーヒーを飲んだのでコーヒー以外で何か冷たいさっぱりしたものが飲みたい気分です。」
「そうね〜ジュースならあるけど」
「お願いします」
市販のりんごジュースかオレンジジュースが注がれるのかと思いきや りんごとにんじんを剥いて「うるさくなるわよ〜」とミキサーを回しミックスジュースを作ってくださった。予想外の手作りドリンク。野菜と果物だけの優しい甘さのミックスジュース。なんだか懐かしくて嬉しくなる。
「外暑かったでしょう〜。ここ涼しいから一度座るともう出られなくなるのよ〜」
「ほんと暑いですね〜」
と常連のおばあさんと軽く会話をする。
10秒後
「外暑いでしょう〜。ここ涼しいから立てなくなっちゃって。そろそろ帰らないと。」
「雨も上がって暑くなってきましたよ〜」
20秒後
「外暑そうね。すぐそこがおうちなんだけどここ涼しいでしょ?出られないのよ〜」
「涼しいですね〜」
盛っていない。本当にこれくらいのスパンでまるで初めてかのように同じことを話しかけられる。そして私は一応毎回違う返しをしてみる。5回以上はこの会話を繰り返して 返しのレパートリーも尽きて「ね〜」と微笑むことしかできなくなってきたところでようやく重い腰をあげてお店を出て行かれた。
「相手してくれてありがとう。歳取るとみんな同じことばっかり言うのよね〜」
と店主さん。
金沢の人たちの日常に紛れ込んだような感覚で ゆったり平和な時間が流れた。
私は旅行をするとき ザ・観光地よりもローカルな所に行きたい派で ここはまさに観光客のいないローカルスポット。自分で調べて立てた2000件を超えるGoogle mapのピンについつい頼りがちだけれど たまにはこういう偶然も面白い。勇気を出してよかった。
つづく
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